生物多様性と生類憐みの令 持続可能な開発とは ( SDGs )
2019年12月に突然出現した「新型コロナウィルス感染症」( COVID19 )は、その後数か月の間に、欧州、北米を席巻し、さらにイラン、トルコ、中南米にも飛び火し、最近では北朝鮮まで拡散し、瞬く間に世界を変えています。数か月で数千万人が感染し、数十万人を死に至らしめる破壊的なパンデミックに直面して、これまで国境をこえて「つながる」ことに信を置いていた現代世界はたちどころに国境を閉ざしました。世界のほとんどの国で、人間は「家にいる」ことを推奨され、人と人との関係は、Internetを介した、バーチャルなものへと移行させられました。今後少なくとも数年間、人類はコロナウィルスとの共存を余儀なくされることは確実です。
この危機の中で私たちが想起しなければならないものが一つあります。2015年9月、国連で193か国の首脳の合意のもとに採択された「持続可能な開発目標」(
SDGs)です。SDGsはそもそも、国内外で拡大する貧困と格差、「地球の限界」がもたらした気候変動や生物多様性の喪失など、ここ数十年の間に人類に破局的状況をもたらしかねない慢性的危機に対して、2030年という年限を区切り、17のゴールと169のターゲット、232の指標を示して「持続可能な社会・経済・環境」に移行することによって、これを克服することを目的とするものです。しかし、コロナショックによって少なくても、一時的には、上述の慢性的な危機に対する意識は、忘却の危機にさらされました。しかし人間たちが忘れようとも、慢性的危機は存在し、深化してきています。SDGsは「危機の克服」のために作られた目標だということを忘れてはいけません。 危機の時代を導く羅針盤としてのSDGsの真の価値です。
17のゴールの中に、「海の豊かさを守ろう」と「陸の豊かさを守ろう」があります。ここではそれぞれについて記述します。
目標14 「海の豊かさを守ろう」
( 内容 ) 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
世界の海洋は、その温度、科学的性質、海流、生物を通じ、地球を人間が住める場所にしているグローバル・システムの原動力となっています。私たちの雨水、飲料水、気象、気候、海岸線、私たちの食物の多く、さらには私たちが吸い込む大気中の酸素でさえ、究極的にはすべて、海が提供、制御しています。しかし現時点では、汚染による沿岸水域の劣化が続いているほか、海洋の酸性化は、生態系と生物多様性の機能に悪い影響を与えています。これによって、小規模漁業にも悪影響が及んでいます。
海洋保護区を実効的に管理し、しっかりと資金を供給する必要があるほか、乱獲や海洋汚染、海洋の酸性化を抑えるための規制の導入も必要となっています。
( ターゲット )
1. 2025年までに、海洋堆積物や富栄養化を含め、特に陸上活動からの汚染による、あらゆる種類の海洋汚染を防ぎ大幅に減らす。
2. 2020年までに、重大な悪影響を回避するため、レジリエンスを高めることなどによって海洋・沿岸の生態系を持続的な形で管理・保護する。また、健全で豊かな海洋を実現するため、生態系の回復に向けた取り組みを行う。
3. あらゆるレベルでの科学的協力を強化するなどして、海洋酸性化の影響を最小限に抑え、その影響に対処する。
目標15「陸の豊かさを守ろう」
( 内容 ) 陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地の劣化の阻止・回復および逆転、ならびに生物多様性(*)の損失を阻止を図る。
地球の表面の75%を変化させた人間の活動は野生生物と自然をますます隅に押し込みました。約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しています。
そして、主に農地拡大により森林面積は依然として恐るべき速さで縮小しています。
地球の表面積の 30.7%を覆う森林は、食料の安定確保と住処の提供のほか、気候変動との闘いや、生物多様性(*)と先住民の居住地の保護にも鍵を握る役割を果たします。私たちは森林保護により、天然資源の管理を強化し、土地生産性を高めることもできます。
人間の活動と気候変動に起因する森林破壊と砂漠化は、持続可能な開発に大きな課題を突き付けるとともに、貧困と闘う人々の生活と生計に影響を及ぼしています。
( ターゲット )
1. 2020年までに、国際的合意にもとづく義務により、陸域・内陸淡水生態系とそのサービス、特に森林、湿地、山地、乾燥地の保全と回復、持続可能な利用を確実なものにする。
2. 2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を止め、劣化した森林を回復させ、世界全体で新規植林と再植林を大幅に増やす。
3. 2030年までに、砂漠化を食い止め、砂漠化や干ばつ、洪水の影響を受けた土地を含む劣化した土地と土壌を回復させ、土地劣化を引き起こさない世界の実現に尽力する。
生物多様性条約
(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))
3つのレベルの多様性があります。
①生態系の多様性
森林、里地里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁などいろいろなタイプの自然があります。
②種の多様性
動植物から細菌などの微生物にいたるまで、いろいろな生きものがいます。
③遺伝子の多様性
同じ種でも異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性があります。
( 内容 )(1)人類は、地球生態系の一員として他の生物と共存しており、また、生物を食糧、医療、科学等に幅広く利用している。近年、野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行し、その原因となっている生物の生息環境の悪化及び生態系の破壊に対する懸念が深刻なものとなってきた。このような事情を背景に、希少種の取引規制や特定の地域の生物種の保護を目的とする既存の国際条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)等)を補完し、生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が国連等において議論されるようになった。
(2)1987年の国連環境計画(UNEP)管理理事会の決定によって設立された専門家会合における検討、及び1990年11月以来7回にわたり開催された政府間条約交渉会議における交渉を経て、1992年5月22日、ナイロビ(ケニア)で開催された合意テキスト採択会議において本条約はコンセンサスにより採択された。
(3)本条約は、1992年6月3日から14日までリオデジャネイロにおいて開催された国連環境開発会議(UNCED)における主要な成果として、国連環境計画(UNEP)とともに右会議中に署名のため開放され、6月13日、我が国はこれに署名した(署名開放期間内に168か国が署名を行った)。
(4)1993年5月28日、日本国政府は寄託者である国連事務総長に受諾書を寄託することにより、本条約を締結した。
(5)1993年12月29日、所定の要件を満たし、本条約は発効した。
(6)2018年12月現在、194か国、欧州連合(EU)及びパレスチナが締結。(なお、米国は未締結。)
( 条約の目的 )
本条約は、(1)生物多様性の保全、(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用、(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分 を目的とする(第1条参照)。
(*)生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。
『実は、生物多様性の損失を阻止するという、ゴールに関し、大雑把なものですが、日本にもありました。日本が江戸と呼ばれていた時代です。生類憐みの令がそれです。「生類憐みの令」とは、5代将軍・徳川綱吉の時代に発布された法令です。文字通り「生き物を大切にせよ」という内容のお触れで、中でもとりわけ犬を大切にしたことから、綱吉は「犬公方」と呼ばれることも。その背景には、綱吉が熱心に学んでいた「儒学」があります。儒学には人を生類の一位に置くという思想があるため、綱吉は決して人をないがしろにしていたわけではありません。生き物を大切にしつつも、生活のために殺生はやむを得ない漁師や猟師の仕事は公認されていました。
「生類憐みの令」はひとつの法令ではなく、生き物に関する複数の関連法の総称のことです。最初に発布されたのは1685(貞享2)年。以降24年間で100回以上お触れが出て、その内容は次第にエスカレートとしていきました。
例えば鶏を射殺した家来を死罪・子犬を捨てた者を市中引き回しの上獄門……など、「生類憐みの令」によって、儒学に無知な庶民は大変苦しめられました。もとは人への慈愛に満ち溢れていた法令も、徐々に悪法へと姿を変えてしまったのです。
綱吉は「生類憐みの令」を、自分の死後も継続してほしいと願っていました。しかし、綱吉の死後ただちに法令は撤回。ただし、捨て子や捨て馬の禁止など、人や動物を守る法令のいくつかはその後も受け継がれていきました。
極端な動物愛護で人の命を奪うのは言語道断です。しかし、どんな小さな生き物にも命があり、子どもお年寄りなど弱い者を守ることは、いつの時代も大切なことではないでしょうか。』