桜がちらほらと咲き始めました。ソメイヨシノはまだですが。スギ花粉が飛び始めて、花粉症の人にはつらい時期ですね。
今回は、漫画の「続まんがパレスチナ問題」を取り上げます。
山井教雄(やまのいのりお)著
続漫画パレスチナ問題 講談社現代新書
―「アラブの春」と「イスラム国」2015年8月20日第一刷発行
著者 山井教雄 発行所 株式会社講談社
山井教雄:1947年東京生まれ。東京外国語大学スペイン語科卒業。マッキャンエリクソン博報堂入社。テレビCFを企画・制作。77年同社退社後渡仏。映画、語学教材の教育ビデオを制作。またフランス国立東洋言語文化研究所で日本語科講師をつとめる。91年漫画集『ブーイング!』(朝日新聞社)で文春漫画賞受賞。2000年フランス・ルーアン市における国際政治漫画フェスティバルでグランプリ受賞。2003~06年、ダボス会議メンバー。06年から国連NGO・Cartooning for Peaceの活動に参加。世界各地で講演。05年に刊行した本書の前作『まんがパレスチナ問題』は複雑なパレスチナ問題のわかりやすい解説書として人気を博す。また姉妹編に『まんが現代史』(講談社現代新書)がある。
(はじめに)
2005年1月、本書の前作にあたる『まんが パレスチナ問題』を出版しました。幸い『わかりやすい』という声をたくさんいただき、多くの読者に読んでもらうことができました。あれから10年。中東は、イスラエル軍の3度にわたるガザ侵攻、「アラブの春」に端を発した独裁政権の崩壊、「イスラム国」をはじめとするイスラム過激派の台頭など、ますます混迷の度を深めているように見えます。そこで、「その後の情勢を伝える続編を読みたい」という読者の声も多く、この度の本となりました。「新聞やTVニュースを見ても、中東問題は複雑すぎてわからない」「学校で習った世界史は、ヨーロッパをやっていると思うと、唐突に中国に移ったり、それも歴史的事件が断片的に記述されているだけなので、それぞれの関連性や歴史の流れがつかめず、現在の国際情勢を理解するのにまったく役に立っていない」。という声をよく聞きます。
これらの声は至極もっともで、ニュースや歴史の授業で教えられる事件や事項は、単独では意味が分からないのです。それらは、巨大なジグソーパズルの一つのピースのようなもので、全体の絵、つまり世界史の流れの中にはめ込んでみないと、それぞれのつながりや意味がつかめないのです。
前作の『まんが パレスチナ問題』はユダヤ人とパレスチナの地の4000年の歴史・・・・・旧約聖書から2004年11月のアラファトPLO(パレスチナ解放機構)議長の死までの歴史を鳥瞰図的な視点で一冊にまとめたものです。前作を読んでいただければ、ユダヤ民族、アラブ民族、そこに介入する大国が、中東の地に描き出した大きな絵が見えてきます。今までに学んできた歴史が、事件が、ジグソーパズルのピースのように、頭の中で関連を持ち始め、ドンドンとつながり、ドンドンはまっていくこと請け合いです。作者としては、前作で描き出した大きな絵の中に、本書もはめ込んで理解していただきたいと思っています。また本書で前作の詳述部分に触れる場合は、該当のページを*印で明記しました。前作『まんがパレスチナ問題』の目次は以下の通りです。
1 アリとニッシム
2 ユダヤ教
3 キリスト教
4 イスラム教
5 十字軍
6 フランス革命
7 第一次世界大戦
8 第二次世界大戦とホロコースト
9 イスラエル建国
10 第1次、第2次中東戦争、
11 第3次中東戦争とPLO
12 第4次中東戦争とサダト
13 キャンプ・デービッド合意
14 インティファーダ
15 湾岸戦争
16 オスロ合意
17 第2インティファーダ
18 9・11
19 エピローグ
20 あとがき
21 本書関連年表
22 索引
続まんがパレスチナ問題 目次
1 プロローグ 10年後の再会
2 ガザ返還とハマスの勝利
3 イスラエルのガザ侵攻とヒズボラの戦い
4 イスラエル、ガザ侵攻再び
5 オバマ登場
6 再びパレスチナ
7 エピローグ ニッシムの旅行
(内容)
1 10年後の再会
ニッシム:早いもんだね。もう10年。よく約束を覚えていてくれたね。
アリ:忘れるもんか!ずっと、マンデラ農園のことばかり考えていたよ。君が言ったように、いろいろな作物に挑戦したよ。トマトやきゅうりなんかの普通の野菜の他に、アボガドやビワ、柿なんかに挑戦した。アボガドはうまくいったよ。それから、鶏を飼ったんだ。今家で食べる鶏肉と卵は、全部ぼくの作品さ。君はこの10年、何をしていたの?
ニッシム:あれから3年後に兵役に行ったんだ。3年兵隊をやって、その間の給料を全部ためて、海外旅行した・・・・。兵役の後、外国旅行するのはイスラエルの若者の習慣なんだ。帰ってきて大学に入って今3年生。経済と経営を勉強している。卒業したら、IT産業に入って、ガッポリ稼いで、農園を買うつもり・・・・。マンデラ農園のこと、ぼくも忘れていないよ。
アリ:いいな、外国旅行ができるなんて!僕なんか一生この壁の中から出られなくなるなるかもしれないんだよ。
ニッシム:絶対いつか僕が君を外国に連れて行ってあげるからね。
アリ:覚えている?
10年前はここの分離壁は仮の壁で隙間があったんだ。そこを通り抜けてここに来られたんだけど、今じゃ壁が完成して許可証がないと、チェックポイントを通れないんだ。
ニッシム:厳しくなったんだね。
アリ:特にぼくみたいな若い男のパレスチナ人には許可証をとるのが難しい。おじさんの病院に行くということにして何とか許可証を手に入れたんだ。この10年、状況はどんどんひどくなっているよ。
ニッシム:この10年間、いろいろあったからなぁ。
2 ガザ返還とハマスの勝利
2005年8月、イスラエルのシャロン首相はガザの入植地から入植者を撤退させ、パレスチナ自治政府に返還する。欧米諸国は、これを和平への第一歩だとして歓迎するが、パレスチナ人たちは武力闘争の勝利だと受け止め、かえって戦闘的になった。2006年1月、パレスチナ自治評議会の選挙があり、パレスチナ人は、ガザに拠点を置く、イスラエルに対する武力闘争を主張する過激派政党「ハマス」を支持し、圧勝させてしまった。ハマスはガザを支配しイスラエルとの武力衝突を繰り返す。
ニッシム:この10年、イスラエル・パレスチナの状況はドンドンひどくなってるね。ガザを支配しているハマスがいつもロケット弾を発射して、テロと報復の連鎖に火をつけてるよ。どうして2006年のパレスチナ自治評議会(日本の国会にあたる)選挙でイスラム過激派ハマスなんかを圧勝させ、政府を作らせちゃったの?
アリ:イスラエルとの和平交渉が失敗して、パレスチナ人はがっかりしてた。そんな時、ガザが返還されて、「ハマスの武力闘争の勝利だ!」と大喜びしたんだ。以前ハマスはイスラエルを破壊すると言っていたけど、今じゃもっと現実的になって、要求してるのは、①グリーンライン(第一次中東戦争の停戦ライン)を国境にすること。分離壁に反対。②パレスチナ難民の自由な帰還。つまり、イスラエル内にある、自分たちの家に帰る権利を認めること。③全イスラエル入植地の撤廃。④エルサレムをパレスチナの首都とすること。の4つで、すごくまともで、ちっとも過激な要求じゃない。それに、ハマスには福祉部門もあって、病院、孤児院なんかを経営して貧しい人を助けてるから人気があるんだ。
ねこ:ガザは幅が約10KM長さ約50Mの帯状の土地で、完全に分離壁に囲われた中で150万人のパレスチナ人が暮らしている。その3分の2が1948年の第1次中東戦争の時に、一時避難のつもりで、家に鍵をかけただけでガザに逃げてきた難民とその子供達。いつの日か、イスラエルに残しうて来た自分たちの家に帰ることを夢見て、今でも家の鍵をしっかり握りしめている人々である。イスラエルの入植地には8500人のユダヤ人入植者が住んでいた。入植者は、「ガザも神から与えられた土地だ!と言って返還には猛烈の反対したけれど、2005年8月、シャロン首相はガザ地区の入植地を破壊し、軍隊も撤退させて、パレスチナ自治政府に返還した。たった8500人の入植者を守るために常駐させた軍隊のコストもばかにならないし、分離壁の建設や入植地の拡大に反対する国際世論をかわそうと考えた。
アリ:パレスチナに民主的な選挙をしろと圧力をかけてきたのは欧米なんだよ。でも、ハマスが選挙で圧勝してアッバス大統領のもとハニーヤが内閣を組織すると、欧米は―――じつは日本も――テロリスト政府だといって、パレスチナに対する経済援助を停止、イスラエルもガザを経済封鎖した。ハマスはガザ返還以来、テロはやめていたし、100%民主的な選挙だったのに・・・・。イスラエルの経済封鎖で食料や水はもちろん不足してしまったし、公務員の給料が払えなくなったり、病院で使う薬までが底をつくひどい状態になったけど、ガザの人々のハマス指示は揺るがなかったんだ。
ニッシム:ハマスが選挙に圧勝した2006年1月、イスラエルじゃシャロンが脳卒中で倒れて、腹心のオルメルトが首相になった。
アリ:オルメルトはハマスを交渉相手とは認めないで、シャロン路線を引き継いで分離壁を作り続けている。一方的に壁を国境だと宣言して、ぼく達を閉じ込めるつもりなんだ。ブッシュ(息子)米大統領もそれを支持した。さらにオルメルトは、ハマスがテロ組織なんだと世界にしめそうと、ハマスを盛んに挑発した。テロはやめてたのに…・。
ガザ内戦
アリ:こんなひどい混乱の中、ガザ地区では2007年5月、ハマスとファタハが主導権争いの内戦を始めたんだ。「ファタハ」ってのは、PLO(パレスチナ解放機構)の議長だったアラファトがつくった組織で、ずっとパレスチナ自治政府の中心になってきた政党だよ。ファタハ幹部は、世界から経済援助を、ずうずうしくも私物化し、自分たちの懐に入れてきた。そのくせ、イスラエルに対しては弱腰で、分離壁の建設も、入植地拡大も全然止められなかったんだ。このファタハの腐敗と無力さにパレスチナ人は嫌気がさしてたんだよ。この内戦はハマスが勝って、ファタハはガザから追い出された。それで、パレスチナ自治政府は、ハマスが支配するガザと、ファタハが支配するヨルダン川西岸に分裂しちゃったんだ。
ニッシム:経済封鎖されて、それでなくても追い込まれてるのに、パレスチナ人同士で戦っちゃうの?
アリ:まったく。イヤんなっちゃうよ!
ネコ:イスラエルとアメリカは、ハマスとファタハが一緒になって武力闘争を仕向けてくるのが一番怖かったんにゃ。そこで、ハマスの拠点ガザを経済封鎖をする一方、ファタハには密かに資金や武器を供与して、反目して戦うように仕向けた。その手にまんまとはまっちゃったニョ。
ニッシム:ところで、ガザは経済封鎖されてるじゃない。水や食料なんかの生活必需品はどうやって手に入れてるの?
アリ:ガザは分離壁で完全に囲われ、「天井のない刑務所」って呼ばれてるんだ。おもな出入り口は、北と南にある2つの検問所。この検問所を閉じられちゃうと、モノもヒトも出入りできなくなっちゃう。外に働きにも出られない。野菜や果物も出荷できない。食料、水ばかりか、必要な薬も手に入らないし、重病人が出ても外の病院には連れていけない。町は破壊されてるけど、ハマスが基地建設に使うといけないからって、復興のための建設機材や資材も入ってこない。しかたがないんで、せっせとエジプト側に秘密トンネルを掘って必要なものは密輸してるんだ。エジプト政府は目をつぶってくれているよ。
ニッシム:大変なんだね!
(トンネル密輸業者の若者):
イスラエル軍にトンネルを襲撃されたら生き埋めになって、一巻の終わりさ。危ないのは十分知ってるけど、ガザにはこれきゃ仕事がないんだ。カラシニコフ銃なんかの武器も持ってくる。ロケット弾の材料を運んでくるやつもいるよ。一日で1000ドルから2000ドルの稼ぎになるんだ。ぼく達が利用しているトンネルが1000本もあって、ハマスのいい資金源になってるよ。
イスラエルのガザ侵攻とヒズボラとの戦い
2006年6月、海岸でピクニックを楽しんでいたパレスチナ人家族が、イスラエルのミサイル誤射で一人を残して死亡。ハマスは報復としてロケット弾攻撃を再開。イスラエル兵一人を拉致した。それに対し、イスラエル軍はガザを空爆、兵士を奪還するためにガザに侵攻する。ハマスの戦いを援護する形で、レバノンの過激派ヒズボラはイスラエルをロケット弾で攻撃、イスラエル兵2人を拉致する。イスラエル軍はレバノンへも空爆、侵攻する。イランから軍事援助や訓練を受けているヒズボラの民兵は中東最強のイスラエル軍の猛攻に耐え、互角に戦う。
アリ:2006年6月9日、ガザの海岸でピクニックをしていたパレスチナ人一家8人が、イスラエルのミサイルの誤射で、10歳の女の子1人を除いて死亡。家族全員を一瞬で失った女の子が、海岸で泣き叫ぶ映像がテレビで放映されると、パレスチナ中が怒り狂い、復讐を誓ったんだ。ハマスや他の過激派は、ガザ返還以来止めていたロケット弾攻撃を再開。トンネルを使ってイスラエルに侵入し、基地を襲って、イスラム兵1人を拉致した。
ニッシム:ガザを返還すれば、テロはなくなり、平和な暮らしが手に入ると思っていたのに・・・。1週間で1000発以上のロケット弾がガザから飛んできた。大勢のイスラエル人がガザを返還したことを後悔し始めたよ。
アリ:ハマスは兵士を開放する条件として、イスラエルの刑務所に拘束されているパレスチナ人の釈放を要求した。イスラエルの刑務所には、石を投げたっていうだけで捕まった子供も含めて、9000人のパレスチナ人が入れられているんだ。ほとんどの家族で、誰かが拘束されているんだよ。
ニッシム:9000人の囚人と1人の兵士の交換なんて考えられないよ。それで、オルメルトはハマスと交渉しないで、ガザに侵攻して武力で兵士を取りもどそうとしたんだ。
アリ:イスラエル軍は首相府にミサイルを撃ち込み、議員30人を拘束したり、ガザで唯一の発電所を破壊した。ハマスは必至に抵抗し、多くの市民が戦闘に巻き込まれて、11月26日に停戦が合意されるまでに400人が殺されたんだ。
アリ:ハマスの戦いを擁護しようと、レバノンの武装組織ヒズボラはイスラエルにロケット弾攻撃を始めたんだ。2006年7月3日、ヒズボラはイスラエル軍の国境パトロール隊を襲って、イスラエル兵8人を殺し、2人を拉致した。すると、7月13日、イスラエルはレバノン国際空港をいきなり空爆。ヒズボラが支配していたレバノン南部を襲撃し始めたんだ。
ニッシム:ヒズボラの強力なイラン製ロケット弾は、レバノン南部から撃たれると、北イスラエルの大都市ハイファまで届いちゃう。それでどうしてもレバノン南部を制圧しなきゃいけなかったんだ。
ねこ:このアパート群のどこかにヒズボラの事務所があるっていうんで、イスラエル空軍に爆撃された南レバノン、ティールの街並み。地下シェルターに逃げ込んだ人は、殆ど生き埋めになって死んじゃったんニャ。
ねこ:ヒズボラっていうのは、1979年の「イラン・イスラム革命」の後、イランがイスラム革命を輸出するために、シーア派革命戦士をレバノンに送ったのが始まり。究極的にはイスラエルを抹殺するのが目的ニャ。以後イランはヒズボラを支援し続け、ヒズボラ軍兵士は、平時は約800人、戦時は2万人以上動員可能で、レバノン国軍より強大になっちゃったニョ。
アリ:ヒズボラの民兵が、イスラエル国防軍の猛攻に耐え、1か月以上(2006年7月13日~8月14日)も互角に戦ったんだ!パレスチナ人ばかりじゃなくって、中東中のイスラム教徒は「ヒズボラがイスラエルに勝った!勝った!」って、大喜びさ。ヒズボラのリーダーのナスララを「中東の英雄」とか「ナセルの再来」とか褒め称え、歌までできたんだ。8月14日に国連の仲介で停戦が成立すると、ナスララ自身も「勝利宣言」を出した。
ニッシム:この戦争って、一体何だったんだろう。僕はこの戦争に戦車隊の衛生兵として動員され、足を怪我した。1か月の空爆と地上戦で、レバノン側1700人(3分の2は民間人)、イスラエル側150人(3分の1は民間人)の死者を出した。7000発の爆弾、250回の艦砲射撃。100万個のクラスター爆弾…。でも、初めの目的「ヒズボラの無力化」も、「拉致された2人の兵士の奪還」も果たせなかった。だからイスラエル国民は、この戦争は負けだと思っている。国民にすっごく批判されたんで、責任を取らされて、軍人1人と閣僚1人が辞めさせられた。だけど、オルメルト自身は、すっごい不人気なのに首相の椅子にしがみついてるんだ。
イスラエル、ガザ侵攻再び
2006年のレバノン侵攻で、イスラエルはヒズボラを無力化できなかった。中途半端で戦争を止めたと、オルメルト政府はイスラエル国民に批判された。ヒズボラとの戦闘の間も、ガザ地区ではハマスのロケット弾攻撃と、イスラエル軍の報復攻撃が断続的に続いていた。2008年12月、イスラエル軍は、ハマスを駆逐して、穏健派の指導部を打ち立てようと、ガザを徹底的に空爆。その後、イスラエル兵にとって危険な市外線になるリスクを冒して、歩兵部隊を投入した。
2008年12月ガザ侵攻
オルメルト・イスラエル首相:レバノンに侵攻したのにヒズボラを無力化でけへんかった。ガザは経済封鎖を3年続けたんやけど、ハマスの支持率は全然落ちんと、いまだにロケット弾を撃ち込んできよる。来年(2009年2月)総選挙があるのに、わしの支持率はドンドン下がる一方や。タカ派のリクード等が支持率を上げて、ヒタヒタと迫ってきよる。アメリカでは次期大統領に、イスラム教徒のお父さんを持つオバマはんが当選してしまいおった。オバマのおっさんは、ブッシュはんみたいに、何が何でもイスラエルを支持、擁護してくれへんやろうし・・・・。
アリ:2008年12月27日、イスラエルはロケット弾に対する報復だっていって、ガザに大規模な空爆を開始した。1週間の空爆で450人も死者が出た。4分の3は民間人だよ!
ニッシム:イスラエル軍は、民間人に被害が出ないように、「ハマスの拠点には近づくな」ってビラを飛行機から撒いたり、細心の注意を払ってスマート爆弾(高性能誘導爆弾)を使ってるんだけど、ハマスが民間人を盾にしてるんだ。学校とか、民間人が大勢いる所に基地を造ったり、逃げ込んだりするんで、民間人に被害が出ちゃうんだ。
アリ:これがガザ市だよ。世界で最も人口密度が高いって言われてるんだ。ピンポイント爆弾だか何だか知らないけれど、こんなところに爆弾なんか落としたら、どうなるかわかるだろう!?
ニッシム:・・・・・。
アリ:さらに2009年1月3日、戦車隊で守られた歩兵部隊がガザに侵攻してきた。激しい市街戦になった。イスラエル軍の攻撃は無差別で、パレスチナ側の死者1434人の3分の2は民間人なんだ。皆が安全だと思って避難した国連が運営する学校まで砲撃された。死者の3分の1は子供なんだよ!イスラエル軍の死者はたった13人だって!おまけに、イスラエル軍は撤退する直前の12時間で、ガザの生活基盤をワザと壊したんだ。1万4000軒の民家(8軒に1軒)、200以上の工場。1万9800㎢の果樹園、8400㎢の畑は戦車やブルドーザーで潰した。民間人、子供を殺すのも、戦闘に関係がない生活基盤を壊すのも国際法違反で、戦争犯罪だよ!
ニッシム:はじめにロケット弾を撃ってきたのはハマスだよ。あれだって無差別攻撃、国際法違反じゃない。幼稚園にでも落ちたらどうするんだい!
ねこ:イスラエルによる一方的侵攻後もハマスは生き残り、ガザを支配し、ロケット弾攻撃も続けたニョだ。
ニッシム:ハマスを無力化できなかったんで、オルメルトは2月の選挙に負け、もっとタカ派でもっと攻撃的なネタニヤフが首相になっちゃった。ネタニヤフはガザの経済封鎖をさらに厳しくして、ヨルダン川西岸、東エルサレムには、ドンドン入植地を造るって公約してるんだよ。
アリ:ネタニヤフはガザの経済封鎖をさらに厳しくした。60%の住人が仕事を失い、90%が一日2ドル以下の貧乏生活なんだ。ハマスが基地を造るといけないからって、建設機器や、セメント、鉄筋なんか全然入れてくれないし、がれきを片づけてると遺体や不発弾がゴロゴロ出てくるから、復興が全然進まないんだよ。
アリ:食料も水も医薬品も不足しているガザの状態は人道問題だって、国連の人権理事会は調査団を送り、経済封鎖の即時解除をイスラエルに求めたんだ。だけどイスラエルは無視。世界のいろいろな市民団体がトラックや船でガザに食糧や医薬品を運ぼうとしたけれど、ほとんどイスラエル軍に追い返された。2010年5月のこと、トルコから6隻の支援船が医療品、食糧や復興資材を積んでガザに向かったんだ。船はガザ近くの公海上で、イスラエル軍に拿捕された。その時、ヘリコプターから支援船に乗り移ったイスラエル兵に、トルコ人ボランティアが9人殺されちゃったんだ。世界中で、イスラエルに抗議するデモが起こった。トルコのエルドアン首相も、「国際法を踏みにじる国家テロだ。場合によっては国交を断絶する」とまで言い出したんだ。
ニッシム:過激派を支援する連中が乗っていたし、最初に手を出したのは乗っていた連中だから、イスラエル軍の行動は正当防衛なんだって聞いたよ。
アリ:イスラエル兵は全員自動小銃を持っていたんだよ。ボランティアが持っていたのはパチンコとバタフライナイフぐらいだったんだよ。それでも正当防衛!?
ニッシム:・・・・・。
オバマ登場
2009年1月20日、バラク・オバマが大統領選に圧勝して、アメリカ初の黒人大統領が誕生する。就任早々、核廃絶やイスラエル・パレスチナ2国共存など、意欲的なスピーチを行い、ノーベル平和賞を受賞する。選挙公約としてイラクからの撤兵を謳っていたオバマは、ブッシュ(息子)が始めたイラクとアフガニスタンの戦争の泥沼から抜け出し、パレスチナにも和平をもたらすと約束する。
アリ:オバマが2008年のアメリカ大統領選挙で圧勝したね。
ニッシム:・・・・。
アリ:お父さんがイスラム教徒なんだよね。
ニッシム:イスラム世界ではお父さんがイスラム教徒なら息子は自動的にイスラム教徒なんだろうけど、オバマはキリスト教徒だよ。
アリ:アメリカで初めての黒人大統領なんだよ!
ニッシム:お父さんは黒人だけど、お母さんはマッタクの白人。だから正確には黒人と白人のハーフだよ。
アリ:アメリカには分離壁がないから、黒人と白人が触れ合える場所がある。だからオバマの両親は人種の違いを乗り越えて、出会って、愛し合って、家庭を作って、オバマを産んだ。パレスチナにだって、分離壁がなけりゃ、パレスチナ人とユダヤ人が出会って、愛し合って、大勢のオバマが生まれるかもしれないんだよ!
ニッシム:そうだね!大勢のオバマが生まれたら、きっと平和になるね!
ねこ:非白人のオバマは黒人やヒスパニックなどのマイノリティーに人気がある。イラク戦争をやめると言っているし、イスラム教徒の息子だから、イスラム世界でも人気は高いんニャ。オバマが大統領として取り組むといった優先課題は次の6つ
① 経済危機からの脱出。
② 医療保険制度の改革。
③ 中東和平。
④ イラクからの米軍撤退。
⑤ アフガニスタン戦争終結。
⑥ グアンタナモ収容所の閉鎖
6つのうち4つまでが中東問題なんニャ。
2009年6月4日、カイロ大学でオバマはこう演説したニョだ。
「私たちが話し合わなければいけない問題は、パレスチナ・イスラエル問題です。(中略)パレスチナが置かれている状況は間違いなく堪え難いものです。アメリカは『パレスチナ国家樹立』という正当な願いに背を向けません。(中略) あまりにも多くの血が、涙が流されました。イスラエルとパレスチナの母親が、子供が恐怖におびえることなく成長するのを見守ることができる日が来るよう、3つのすばらしい宗教の聖地が、平和な場所となる日が来るように努力する責任がわれわれにはあります。(後略」。
アリ:オバマは2009年12月、ノーベル平和賞をもらったよ!
ねこ:核廃絶の演説とか、中東和平に関する演説とか、平和に向けた一連のスピーチが評価されたものだニャ。現役の大統領が受賞するのは珍しいし、特にオバマの場合は、大統領就任1年目、演説だけで、まだ何の実績を上げていないのにもらちゃったニョだ。オバマは、前大統領ブッシュ(息子)から引き継いだアフガニスタン、イラクという二つの泥沼戦争を終わらせるのが役目だけれど、それにしても戦争のまっただ中にいる大統領に「平和賞」をあげるニャんて・・・・。世界がオバマに、この戦争を上手に終わらせてほしいと、大いに期待してるってサインだニャ。エールを送ったんニャ。
アリ:そんなに難しいことなの?
ねこ:一度ブッシュ(息子)という運転手が猛スピードで間違った方向へ走り出させちゃった車は、運転手が替わっても、すぐに止まったり、方向転換するのは難しい。車のメカニズムも、国家のメカニズムもニャ。
アリ:でもオバマは言っているよ,「Yes, We Can!」て。
再びパレスチナ
イスラエル、パレスチナは、いまのところ「アラブの春」によって引き起こされた戦争には巻き込まれていないものの、「アラブの春」の民主化運動と「イスラム国」の台頭には大きく影響された。パレスチナのアッバス大統領は、停滞しているイスラエルとの和平・独立交渉にいら立ちを見せるパレスチナの若者たちの圧力で、国連に独立国として加盟を申請するが、オバマ大統領の拒否権行使に遭い失敗する。2014年、イスラエルとガザで双方の少年の誘拐、殺人事件が起こり、その報復合戦としてまたまた激しい戦闘が再開する。
ニッシム:パレスチナでは何か「アラブの春」の影響はあったの?
アリ:うん。全然進まないイスラエルとの和平・独立交渉と、じわじわとパレスチナの国土を侵食する、ヨルダン川西岸のイスラエルの入植地建設にフラストレーションをためていたパレスチナの若者たちは、「アラブの春」の民主化運動に刺激されて、イスラエルとの合意なしで独立を進めるようにアッバス政府に圧力をかけたんだ。2011年9月、アッバスは国連に独立国家としての加盟を申請した。
アリ:でも、オバマが安全保障理事会で拒否権を発動して、パレスチナは国家としての加盟は認められなかった。発言はできても投票権がない「オブザーバー国」としては認められたけどね。
ねこ:大統領就任当時、パレスチナの独立、イスラエルとの2国平和共存を訴えてノーベル平和賞をもらったオバマなのに、2期目の大統領選を控えて、アメリカのユダヤ人票と選挙資金が欲しくて腰が引けたんニャ。アメリカには「ユダヤロビー」っていう強~い圧力団体があって、イスラエルに有利な政策をとるように政治家に圧力をかけるんニャ。アメリカのユダヤ人は550万人、米人口の2~3%なんだけど、お金持ちや、社会的地位が高い、影響力が大きい人が多くて、「ユダヤロビー」に逆らうと、選挙に勝てないと言われているニョだ。
アリ:アメリカのユダヤ人はマスコミ、映画、金融業界を牛耳ってるって話だもんな~。
アリ:2014年7月2日、パレスチナの16歳の少年が、ユダヤ人入植者に誘拐されて暴行され、ガソリンを無理やり飲まされて火をつけられて殺されたんだ。今までにも大勢の人が殺されてきたけど、こんなむごい殺され方は初めてだ!
ニッシム:その数日前に、イスラエルの少年3人が誘拐され、殺されたんだ。その報復なんだって。
アリ:そのまた報復だって言ってハマスがロケット弾を飛ばして、そのまた報復だって言ってイスラエル軍がガザを空爆する。こんな報復に報復ぶつけてたら幸福になれないよ!2つの殺人事件は精神的におかしい連中の犯罪だよ。警察が犯人を捕まえて裁判にかけりゃいいんだ。ハマスも軍隊も出てきちゃだめだよ。
ねこ:ハマスが2006年の選挙で大勝して、ガザを支配するようになってから、今回がイスラエル軍4度目の大規模攻撃だニャ。
① 2006年6月28日~11月26日、ミサイル攻撃と地上戦、死者409人(イスラエル7人)
② 2008年12月~09年1月23日、空爆と地上戦、死者1434人(イスラエル13人)
③ 2012年11月(8日間)、空爆のみ、死者170人(イスラエル6人)
④ 2014人7月~8月(51日間)、空爆と地上戦、死者2200人(イスラエル70人)
アリ:人が殺されただけじゃないんだよ。ガザで1万8000軒の家が壊され、10万人以上が避難民になった。ガザの医療機関130の内、60か所が破壊され、21か所が閉鎖。ガザでたった1つの発電所や、工場、農業用の井戸も壊された。戦闘員じゃない一般市民が大勢殺され、戦争に関係がない生活基盤が破壊されたんだ。国際法違反だよ!
ニッシム:ハマスが一般の家や、医療機関に隠れているから狙われるんだってば。ハマスだって一日150発のロケット弾を無差別に撃ってきたんだ。ロケット弾が改良されて、射程距離が倍になり、エルサレムでもテルアビブでも届くんだ。ネゲブ砂漠にある核施設までねらわれたんだよ。狙撃ミサイルが防衛に成功したからよかったけど。テロリストが核施設を攻撃した、初めてのケースになったんだ。
ねこ:イスラエルとの間にいざこざがあると、ハマスがロケット弾を飛ばし、その報復だと言って、イスラエル軍がガザを空爆したり、戦車部隊で侵攻する・・・・。いつも同じシナリオだニャ。
テレビドラマのシナリオライターだったら、こんな同じストーリーばかり書いていたらクビニャ。
アリ:どうして同じような理由で同じような戦闘を繰り返すの?
ねこ:たぶん、イスラエル政府も、ハマスも、それを望んでいるからだニャ。国民ってのは、いつの時代でも、とても好戦的なもんニャ。敵を作って戦争をして、挙国一致—国民を一つにまとめるってのは、昔から二流政治家がやってきたことニャのだ。イスラエルでも戦争をすると政府の支持率が上がるんニャ。ガザの場合でも、どんなに犠牲が出ても、闘争を続けるハマスの支持率は落ちニャい。ハマスの抵抗と言ってもロケット弾を飛ばすくらいで、イスラエル側にはほとんど被害がでニャい。ハマスは「イスラム国」ほどの無茶はしないけど、国際的にテロリストグループとして通ってるから、適当に叩いても「テロとの戦いだ」と言えば国際社会では通ってしまう。ハマスはイスラエルにとって格好の、必要不可欠の「敵」なんニャ。イスラエル軍にとって、空軍も大型兵器も持たないハマスを殲滅することはさほど難しいことではニャイはずだ。ところが毎回、2~3年後には、またロケット弾を飛ばせる程度に回復する力をハマスに残しとくんニャ。今回も、イスラエル国民はネタニヤフ政府の戦争を圧倒的に支持したし、停戦直後の選挙でもネタニヤフに勝たせてしまったニョだ。
ねこ:ところが平和を求めるとこうは簡単には行かない。2つの敵対するグループが平和を結ぶとなると、両者が大きな妥協をしなければいけニャい。この妥協を国民に飲ませるのは、本当に偉大で、説得力のある政治家が命をかけなければできないことなんニャ。イスラエル独立以来67年経ったけど、それができたのはたった2人。サダトとラビンだけニャ。そして2人とも妥協に不満な国民に殺されてしまった。さらに偉大なのは、君たちが大好きな南アフリカのマンデラニャ。マンデラは国民に、憎しみを超えて復讐の連鎖を断ち切り、融和することを求めた。南アフリカでは小さな小競り合いはあるものの、内戦や大きな暴動は起こらず、マンデラも天寿をまっとうした。おれは絶望していニャい。「アラブの春」で街々で委員会を作り、最後まで若者に武器をとらせず、丸腰で、ケータイとインターネットで戦いぬいたチュニジアとエジプトの若者達、それに君達。この中からきっと将来のマンデラやサダトやラビンが出てくると信じてるニョだ。